スパイアニメについて

どうも、ワンダです。

 

大河内一楼という脚本家がいる。

 

プラネテス』や『コードギアス』などの作品で著名な脚本家であり、その緻密なストーリー構成には定評がある。

 

彼が近年手がけた中で最も優れていた作品は、橘正紀監督によるオリジナルアニメーション『プリンセス・プリンシパル』であろう。

19世紀末のロンドンで活躍する少女スパイを描いた本作は、可愛らしいキャラクターがシリアスなミッションに挑むギャップと練られた脚本が評価され、新作劇場アニメの公開も控える人気作だ。

スパイを扱ったアニメとしては『ジョーカー・ゲーム』がある。これは大日本帝国のスパイが国内や大陸で秘密作品に従事する姿を描いた作品であり、緻密な時代考証と緊張感のあるミステリ描写、Productin I.Gによる作画と実力派声優陣の織りなす硬派な芝居が魅力的な良作だ。

このように徹底してリアル路線を追求した『ジョーカー・ゲーム』と異なり、『プリンセス・プリンシパル』は美少女が活躍し、また「ケイバーライト」という無重力技術が作品の鍵を握るなどファンタジックな要素が多い。しかしファンタジーの世界に安住することなく、敵国との攻防は手に汗握るし、貧困や虐待といった社会問題を背景とすることで世界観に深みを与えている。つまりは、門戸は広いが奥は深い作品となっているのだ。梶浦由紀の楽曲も作品の奥行きに寄与している。

 

さて、私はつい最近『RELEASE THE SPYCE』というスパイアニメを観たのだが、これがスパイ物としてお粗末で残念だった。

日本にある架空の都市を舞台に正義の秘密結社「ツキカゲ」が悪の秘密組織「モウリョウ」と戦うというなんとも子供じみたストーリーであり、キャラクターも典型的な萌えキャラであまりオリジナリティがない。アクション作画に迫力がないのもスパイ物としては致命的に思えた。後半のシリアス展開も非常にありきたりで、涙よりもむしろ笑いを誘う。

 

ここでスパイ物一般について考えてみる。

 

スパイ映画として有名なのは、『007シリーズ』、『ジェイソン・ボーンシリーズ』、『ミッション:インポッシブルシリーズ』などだろう。

これらの作品に共通するのは、国家規模の陰謀を解明し、事件を解決するプロセスの面白さである。これを一般化すると、我々がスパイ映画に求めるのは、一つには謎解きの面白さ、もう一つが華麗なアクションの面白さ、である。 

そして舞台設定が大事だ。スパイとは基本的に嘘である。実際のスパイは(多分)暗殺もしないし偵察もしない。だからこそ作品世界におけるスパイにはリアリティが必要となる。現実世界に存在する国やシステムを登場させ、尚且つそれを有効に用いることは、リアリティを与えるための初歩的な方法論である。リアリティとは、限界を設定することと同義である。この設定ならここまでは可能だがここからは非現実的ということを決めるのがリアリティなのだ。例えば、『プリプリ』の場合だと19世期末のロンドンを舞台に作劇を展開することでリアリティが生まれる。この時代ならこのような背景が可能でこのような展開があり得ると視聴者が理解できるからだ。『リリスパ』は架空の都市を背景とし、尚且つ様々なオリジナル兵器を用いるため、作品世界のリアリティが見えづらくなっている。

 

よって、『リリスパ』はおそらくスパイを中心としたストーリー展開よりもキャラの可愛さを楽しむアニメなのだろう。

今作を象徴するのは先輩スパイが後輩スパイを養成する師弟システムであるが、これによりキャラ間の関係性が明確になる。具体的には、主人公を中心に、師匠↔︎弟子の上下関係と後輩同士による横の関係が構築される。(最終回では主人公も師匠となって弟子を育成する立場になる。)

この関係性を通して描かれる「百合」が本作の魅力であり、それを楽しみたい人には確かに向いている。

この場合、作品世界が非常に陳腐であることも、完全な虚構を生きる彼女たちを見守りたいという視聴者の欲望に訴えかける装置として積極的に機能する。

つまり物語はおまけであり、本質的には仲の良いキャラを愛でることに意義がある。それが『リリスパ』なのだ。

以上のような意味で、『リリスパ』はスパイ物ではないと私は考える。スパイを題材にした萌えアニメだ。スパイを題材にするだけではスパイアニメにならないことの好例である。

私は、浅はかにも少しはスパイ物としての面白さを今作に期待してしまったが、それは間違いだったのだ。

現代アニメーション業界において、マーケティング戦略の必要性から、美少女を出すなら男オタを、男性キャラを中心とするなら女オタを、主要ターゲット層とするが、男女双方からの人気を得ることを考えると、私は『プリンセス・プリンシパル』のように美少女を中心に据えながらもスパイ物としての面白さをも追求する作品に開かれた未来があると思うのだが、どうだろうか?

 

ジョーカー・ゲーム9点

プリンセス・プリンシパル8点

RELEASE THE SPYCE4点