バトンを繋ぐということ
こんにちは、ワンダです。
第一回目のブログで取り上げるアニメは、いしづかあつこ監督マッドハウス制作による『プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ』です。
なぜこの作品を今回取り上げるかというと、まぁ単純に今日最終話まで観たからです。
これからも、特に例外がない限りは、観たばかりの出来立てホヤホヤの感想を投稿していきたいと思っています。
では、早速本題に入ります。
今作は、ストライドというパルクールと駅伝競走を融合させたような架空のスポーツを題材に、高校生たちが「エンド・オブ・サマー(略称:EOS)」なるストライドの大会で優勝するまでを描く物語です。
今作最大の魅力は何と言っても題名にもあるストライド描写にあります。キャラクターのアクロバティックな動きや走りに、スパイクのキュキュッという効果音や声優陣の見事な息遣いが加わることで華麗ながらも熱のこもった、とにかくカッコいい映像表現として成立しています。はっきり言って、このストライドシーンだけでも今作を観る価値はあると思います。陸上描写として非常に良いものに仕上がっています。
ルール自体も、駅伝に障害物競走の要素を加えたようなシンプルなもので、初回から対戦が描かれることもあり、架空のスポーツながらもすぐに理解できるようになっています。
次に、男性陣を中心としたキャラクター描写。花澤香菜演じるヒロインを除いて、登場人物はほとんど全てが男性です。
スポーツと男子の友情というテーマで似た作品としては『Free!』を思い浮かべますね。一部キャストも共通してますし、監督が女性である点やEDを男性声優がユニゾンで歌う点なども共通しています。(他にはテニスの王子様とか黒子のバスケとか。)
これらを具体的に比較してみるのも面白いとは思いますが、ここではとりあえずこのくらいにして内容面の説明に入ります。
物語展開自体は非常に王道です。12話構成としては必要十分な要素が満遍なく詰まっており、スポーツアニメのお手本のような脚本と言えます。
昔は名門だったが今では陰りのある高校、大型新入生の入部による部の再活性、好敵手と書いてライバルと読む最高の友人、次々に現れるライバル校との競合、過去の主要部員の部活復帰、兄弟の確執・兄への劣等感、才能とその限界への苦悩、挫折と再起、幼少期の約束と再会、友情努力勝利、などなど、THE王道な要素のオンパレードです。
これらを全体の調和の中で活かし切っているいしづかあつこ監督の手腕は流石と言うしかありません。編集能力の妙ですね。
また、スポーツ物の出来を左右すると言っても過言でない「先輩・後輩関係」と「同級生関係」の描写も、後述する「ハイタッチ」のギミックを利用して巧みなものになっていました。横との絆で上からのバトンを引き継ぐのが、スポーツ物の様式美なのだと私は考えています。(少しジャンルが違うかもしれないがアイカツ!などはその好例。)
この点、ゲーム版にはあるらしい恋愛要素がなかったことも、友情という今作のテーマを引き立たせる上で正解だったと思います。(単純に尺の都合でそれ以上入れ込めないというのもあったかもしれませんが。)
逆に、ストーリーに遊び心がないと言ってよいほどの非常な真っ直ぐさが、若干ありきたりにも思えました。(メディアミックス作品はどうしても「無難」であることを求められる性質上致し方ないことだとは思いますが。)
そして、競技の特性上面白いと思ったのが、ハイタッチによってリレーを行うというシステムです。
「手」とは古来より人と人とが繋がるためのツールであり、コミュニケーションの記号なのです。例えば、握手やサムズアップはその象徴と言えるでしょう。そしてハイタッチもその例外ではない。
すなわち、人と人とを繋ぐ象徴であるハイタッチによって、視覚的に想いを繋げるという作品のテーマを体現することに成功しているわけです。(作中で主人公2人が握手するシーンなどもその点で示唆的です。)
また、これは11話において主人公たちが幼少期の約束を思い出す時の媒介としても機能します。ハイタッチという一つの動作を通して、人だけでなく時間を繋げることにも成功しているのです。このエピソードで、主人公たちが幼少期にしていたように下の名前で呼ぶようになったことからも、このことは分かります。
先輩から後輩へ、後輩から先輩へ、仲間から仲間へ、様々な形で人の輪が繋がっていくのです。
このように一つの動作に多様な意義を付与して要所要所で盛り上げる技法は、大変巧みに思いました。
最後に、OxTによるOP「STRIDER'S HIGH」が最高に熱くてカッコいい。作品に寄り添いつつ独自の世界観も体現している。アニソンとして圧倒的な完成度です。素晴らしい楽曲を作り続けるOxTの才能には本当に脱帽します。
以上、総合的に良く出来た佳作であるとの印象を持ちましたが、個々の要素が若干ありきたりでキレが今一つであることを鑑みて、9点に近い8点とします。